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4人の女性が主人公の短編小説【Girls Live in Secrets】掲載中
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 リョウコの元彼君は当然のように私の斜め前に座り、これまた当然のようにリョウコの近状を聞きたがった。
「まぁ、今はそれなりに社会人の彼と上手くいってるみたいよ」
 そういって私はきつねうどんの汁をすする。対する元彼君は食べる気があるのかないのか、カレーを皿の上でぐちゃぐちゃとかき回しているだけである。
「佐藤さん。どうしてリョウコは俺と別れたりしたんだろう」
「それ、私じゃなくて本人に聞くことでしょう」
 むしろ私はリョウコが何故この男とつきあったのか、というほうが疑問だけど。
「そうなんだけどさ…。なかなか会う機会がなくて。佐藤さんなら何か聞いてるかなと思ったんだけど」
 常にどこか自信がなさげで、ファッションセンスもいただけない。食事の仕方は美しくないし、そのうえチンパンジーみたいな顔つきをしている。イケメンである必要はないが、せめて人の顔はしていて欲しい。
「……10点」
「え?」ぱちくりと瞬きをする元彼君に、「なんでもないの、気にしないで」と愛想笑いを向ける。いけない、いけない。あまりに酷い点数だったのでため息と共に吐き出してしまった。
「そういう君もリョウコの事ひきずってないで、いい加減新しい彼女見つけたら?」
 そういって元彼君を見た瞬間、その後ろの通路を何気なく歩いているリョウコと目が合った。
「あー!ゴメン。私これから先生の所にいく約束してたの!」
 慌てて大声でまくし立て、急いで身支度をする。予想通り私に気が付いたリョウコは、同時に私と一緒にいた人物にも気が付き、回れ右をして食堂の出口へと向かう。
「ああ、急いでるなら食器は俺が一緒に片付けておくよ」私の演技にも気が付かず、元彼君はやっとカレーを口に運び始めた。あのカレー、さめちゃってるんじゃないかしら。
「ありがとう。悪いけどお願いするわ」
 世の中には知らないほうが幸せなこともある。私はそう思いながら食堂を後にした。

※※※※※
 
「まったく、びっくりしたわよ」
「それはこっちの台詞。ミカがいるとおもったら一緒にあいつまでいるんだから。一体どういう風の吹き回し?」
「偶然食堂で会ったのよ。で、元彼君が勝手に近くに座って喋りだしただけ」
 文学部のラウンジでリョウコと合流した私は、少し早めのおやつタイムに入っていた。
「個人的には、なんでリョウコがあんな人と付き合ったかが不思議なんだけど」
「ああ、言ってなかったっけ。彼、ドイツ語だけは出来たのよ」
「……それだけ?」
「あとは親切だった。それだけよ。あの時の私はバカだったと思うわ」
 思わぬ人物のおかげで昼食をとり損ねたリョウコは、コンビニで買ってきたおにぎりにかぶりつく。
「ミカも見たでしょ?彼の食べ方。私、あの汚い食べ方見てるのがもう耐えられなくって!」
「確かにカレーをぐちゃぐちゃかき混ぜるのはいただけないわね」
「カレーだけじゃないわよ。何でもかんでもぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃ!食の好みってあっちの好みとも関係してるっていうけど、ものの食べ方もやっぱり関係してるのね」
「カレーの食べ方がお上品じゃなければ、女の子の食べ方もへたくそってことね」
 少し声のトーンをおとして言うと、「ご名答」とリョウコも小さく笑った。
「ま。それ以来、気になる男がいたら最初は食事の仕方でYesかNoかを決めるようになったわ」
 チンパンジーのような元彼君を思い出し、「顔は気にしないの?」と聞いてみる。確か今の彼である柴田氏はそこそこイケメンだったはずだ。
「私は面食いじゃないからね。人の顔をしていれば文句はないわ」
 リョウコが私と全く同じことをいうので、私は思わずふきだした。
「確かにガチョウやゴリラみたいな顔つきの人はいるわね」
「でしょう?別にイケメンである必要はないけど、やっぱり人の顔をしていてもらわなくちゃ」
 それをいったらエリカの彼氏なんてどうなるのだろう。エリカはマッスルで頼りがいのある男性が好きらしく、毎回連れてくる彼氏はゴリラ顔が多い。
「エリカにそれ言うんじゃないわよ。怒られるわ」
「分かってる。毎回男の趣味が合わないと思いながら見てるから、大丈夫よ」
  腕時計をみて私は立ち上がる。そろそろゼミの時間だ。
「卒論おわったら合コンでもしましょ」私がゼミだとわかって、リョウコも移動支度を始める。
「柴田氏に怒られるわよ」
「別に怒りはしないわよ。そもそも私に対する興味が低いんだから。ここいらで一度嫉妬させてやらなきゃ」
 つんつんしながらも構ってほしいんだなと私は密かに苦笑する。自覚は無いようだが、リョウコはツンデレである。

※※※※※
 
 おかしい。
 私はコの字型の机に座りながら配布された資料に無理矢理目を向けていた。
 なんか分からないけど、反対側の席に座っている発表者の顔を見ると苛々する。
 時期も時期なので、各個人の卒論を書けたところまでゼミで発表するのだが、今日の発表者は何故か私を苛々させるオーラを放っている。質問をしても「はぁ…、はぁ…」といったっきり黙秘権を行使されてしまうので他にすることもなく、仕方なく私は彼の顔を観察し始めた。
 まず自信がなさそうなのは大きな減点。やっぱり何かしら自信がある男はオーラが違うわよね。でもこれは苛々する原因ではなさそうなので、配布資料を使って彼の顔を所々隠していく。ん~。髪型はダサいけど原因じゃない。目がたれ目なのも許容範囲。服装はダサいけど本人に似合ってるからいいか。猫背なのが原因なのかしら。
 そう思って資料をふとあげた次の瞬間、私は彼の口が原因であることに気がついた。口元が変にゆるんでいてだらしないのだ。きっと本人は気がついていないのだろう。けれど、彼の口元を隠すと自然と苛々しない。間違いなく原因は口元だ。
『ちょっと、どうしたの?』
 隣に座っているエリカが筆談で話しかけてくる。
『今日の発表者の顔見てたら妙に苛々するから何が原因か観察してたのよ。原因は口元よ』
『そんなことで苛々してたの?男は自信があってアソコが大きくてガンガンきてくれるならそれでいいじゃない』
『どうりでエリカの彼氏は毎回似たようなタイプな訳ね』
『たくましい体にアソコをガンガンに突かれまくるって最高よ。ミカも一度試すべきだわ』
『考えておく』
 ゴリラ顔はお断りだけどね。
 自信家。人並み以上の顔。食事の仕方。ファッションセンス。姿勢。夜の相性。こうして並べてみると、私たちが彼氏にしたいと思う男の条件って結構厳しいのかしら。顔は性格である程度カバーできるからいいとして、他は努力でどうとでもなる条件よね。「彼女がほしい」なんていう前に、男は食事の仕方から見直すべきなんだわ。私は一つ頷くと、こっそり携帯を取り出してツイートした。
『彼女が出来ないと嘆く奴は、自分磨きに精を出せ!』
 
End
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 世の中には魅力的な男性がいる一方、魅力的じゃない男性もいる。
 そもそも世の中全ての男性が魅力的だったら、「あの人は魅力的だ」といった表現は存在しない。「あの人には目が2つもある!」といった褒め言葉が存在しないのと原理は一緒だ。目が2つあるのは当たり前。だから褒め言葉なんて存在しない。逆に魅力的なのは特別なこと。だから褒め言葉として使われる。つまり魅力のない人が世の中にいるからこそ、「魅力的」という言葉は生まれたわけである。

※※※※※
 
 夜、卒論の仕上げに取り掛かりながら、リョウコはPC画面に向かって話しかけていた。画面にうつっているのは例の28歳起業家、柴田巡(しばた めぐる)氏である。
 彼は取り立てて美男子というわけではないが、その持ち前の知的さでリョウコを魅了している。リョウコが採点する男性の魅力最大ポイントは、知的センスと美的センス。頭がよくて、ファッションを含めた容姿が美しくなければ嫌。この場合の美しいとは「本人に似合っていて、容姿全体の調和が取れているか」。いくら素敵なスーツを着てたって、腕時計がキャラクター時計だったらアウト。また、服と靴のとりあわせが滅茶苦茶でもアウト。さらに、「いくら自分に似合うからって、毎日のびかけたTシャツとジーンズの組み合わせとかありえない!」だそうだ。リョウコの前ではシワ・シミのついた服は勿論のこと、適度にスタイリッシュなファッションをしなくてはならない。
 その点柴田氏は完璧とも言える。適度なジョークも通じ、学問においても情報技術、経済学に精通しているのでリョウコを飽きさせることがない。また、世代のギャップもあるので、昔流行った一世代上のブームなども教えてくれる。リョウコにとっては、唯一対等の立場に立つことが許される貴重な情報源ともいえるのである。
 昨夜は1時間しか寝てないのだと、早々と布団にもぐってしまった柴田氏の寝顔を見ながらリョウコは小さく苦笑する。
「もう少し私の事を気遣ってくれたら完璧なんだけどなぁ…」
 年の差恋愛な上に、遠距離恋愛。一昔前は大変だとされていた遠距離恋愛も、今はネットのおかげで大分楽になった。Skypeは遠距離恋愛カップルの必需品ともいえるだろう。カメラ付きマイクのおかげで顔を見ることもできる。
「ま、珍しく毎日電話くれてるからいいか」
 柴田氏は仕事が忙しくなると連絡不精になるのだが、リョウコの誕生日を忘れてからというもの、毎日Skypeで電話をかけてくる。どんなに疲れていても、必ず電話をくれるようになった。彼は彼なりに気をつかってくれているのかもしれない。今まで3ヶ月も皆勤賞なんてことはありえなかったのだ。
「おやすみ、メグ」柴田氏が完全に眠りに落ちているのを確認してSkypeのビデオ電話を切る。
 普段ならノートパソコンを布団に持ち込んで彼の寝顔を眺めながら寝るのだが、今日は流石にゆっくり寝てほしかった。Skypeを切れば、相手のパソコンはスクリーンセーバー状態になり、部屋も暗くなるだろう。
 リョウコは一つ伸びをすると、卒論の仕上げに戻った。
 
※※※※※

 私は大きなあくびを噛み殺し、エリカの卒論を添削していた。私の卒論はシオリが添削してくれている。
「どうしたのよ。随分眠そうね」赤ペンを片手にしたシオリが珍しそうに言った。
「久しぶりにネットオークションみてたら素敵なバッグみつけちゃって。柄にもなく落札まで粘ってたのよ」
「ミカがバッグ狙うなんて珍しい。てっきり健康脚ツボマッサージ機かと思った」言った後で、「ファッションに関して粘るのはあたしの十八番なのに」とエリカが笑う。
「それでどこのバッグなの?グッチ?プラダ?」そういうエリカの腕には今日もお気に入りのシャネル時計がきらめいている。
「バーバリー」
「えー、バーバリー!?ちょっと地味じゃない?」
 確かにエリカが持つには地味だろう。
「私っていかにもブランド品!っていうのを持つタイプでもないでしょ。ノバチェック柄と赤レザーのコンビが可愛かったのよ。大きさも形も品がよかったし」
「私もバーバリーは好きよ。万年愛されるブランドだと思うわ」シオリはそういってチェック済みの卒論を私に差し出した。「ちなみにいくらだったの?」
「送料込みで11,200円。こんな高いバッグ買ったの初めてよ」
「あら、そこそこいいお値段じゃない。得したわね」
「ありがと。それにしてもエリカの卒論、文法が滅茶苦茶よ。もう少し整理してくれないと、ダチョウが空飛んでいっちゃうわ」対するエリカはシオリの卒論を放り出し、「シオリはもう少し易しい言葉を使ってよ。呪文にしか見えないわ」なんて嘆く始末。卒論提出日まで間もないので、エリカに書き直しを命じて、私たちは解散した。
 
※※※※※
 
 リョウコではないけれど、私だって自分に似合うものを身につけたい。そういう意味でグッチやシャネルとは一生無縁で終わるだろう。それは男性においても同じこと。変に高望みをしようとしないのが私のクセである。
 はやめの昼食を食べていると、斜め前の席に見覚えのある男子学生がやってきた。
「あれ、佐藤さん。久しぶり」
 短髪、たれ目に長身で、ファッションセンスは30点。リョウコの汚点ともいえる元彼だった。

to be continued
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