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4人の女性が主人公の短編小説【Girls Live in Secrets】掲載中
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 何故だかしらないけど、私たちの周りには処女が多い。
 嗚呼、あくまで「私たちの周り」であって、「私たち」は処女じゃない。今現在彼氏がいるかいないかは別として、私たちはもう全員経験済み。

※※※※※
 
「卒論なんて嫌になっちゃう」そう言ってエリカがラーメンをすする。
 この日も私たちは大学の食堂でランチをしていた。食べたいものが特に決まってない日はいつもここにくる。ファミレス並みにメニューが多いので、食の好みがバラバラな私たちを全てカバーしてくれるのだ。
「その話題はやめて。私まで頭が痛くなる」資料から目を上げてリョウコが続ける。「ただでさえ彼氏のことで頭が痛いって言うのに」
「だからそんな自己中男とはさっさと別れなさいよ。ねぇ、ミカからも何かいってやって。この子、私がいくらいっても別れようとはしないのよ」シオリはそういいながら珈琲にミルクと砂糖をたっぷり入れてかき混ぜる。
 私は目の前のチョコレートパフェをつつきながらリョウコの彼氏を思い出す。
「基本的に恋人同士のイベントが嫌いで、今年は彼女の誕生日すら忘れた人だっけ?」
「今年起業したばかりなんだから仕方ないじゃない。忙しいのよ」
「そんな男とは別れなさい」生クリームをすくってエリカの口にいれてやる。「リョウコならもっといい人捕まえられるわ」
 リョウコの彼氏は28歳の起業家。有名大学を卒業するくらいなので頭はいいのだが、デリカシーがないのが玉に瑕(たまにきず)。いくら真実であろうと、相手を傷つける言い方をした時点でアウトなのだ。恋人同士ならなおさらそう。女はいつまでもお姫様でいたいと考える生き物だ。つまり騎士役である彼氏にデリカシーがなければ致命的。守られるどころか、逆に傷つけられてしまう。
 しかし28歳の起業家はリョウコが傷つくとわかっていながら真実を口にする。「君は我儘で子供だ」「この事業が破綻すれば君と逢う気はない」。言われたリョウコがどれだけ淋しく悲しい思いをするかなんて彼は考えていないのだ。
「大体、半年も逢ってないんでしょ?いい加減欲求不満を解消するために新しい彼氏探したら?」
 エリカに欲求不満を指摘されたが、当の本人は「逢ってないけど、この前電話でした」とご満悦。
「はいはい、電話機つかってオナニーなんて凄いわね。子機をアソコに入れるのかしら?」
 シオリの突っ込みでリョウコ以外の全員が大笑いする。
「相手が目の前にいないからこそ想像力がかきたてられるの。でも電話の向こうには彼がいて、私の声を聞いたり、私に指示を出したりするのよ。一人でやるより絶対にいいわ」
 私たちが笑っている中、リョウコはうっとり顔で力説。また、彼女の持っていた資料が「想像力とセックスの関係性」だったので、私たちは更に笑わざるを得なかった。リョウコは卒論にまで夜の営みを持ち込むらしい。
「卒論にセックスを持ち込むのもあれだけど、セックスに卒論を持ち込むのはアウトよ」
「やめてよミカ。ヤってる最中に卒論の本文考えちゃいそうじゃない」
「冗談よ」とエリカに返し、私はリョウコの顔をみる。
「つまり、あっちの相性がいいから別れたくないんでしょ」
 リョウコが頷くのと同時に、隣のテーブルに座っている女子大生達が嫌そうな目でこちらを睨み付けてきた。何か文句をつけてくるわけでもなく、ただじっとコチラを睨み付けている。
 私は小さく咳払いをすると、「移動しましょ」と合図をだして立ち上がった。隣のテーブルをチラリと見ると全員納得したように神妙な顔つきで荷物をまとめ、食堂を後にした。

※※※※※
 
 空いている教室に移動した後、私たちは「日本が何故性に対してオープンじゃないのか」について話し合っていた。おかげで28歳の起業家は彼氏生命を一時とりとめることとなった。
「絶対おかしいわよ。どうしてセクシャルな話になると日本人って嫌な顔をするのかしら」
 セックスが三度の飯より好きなエリカだが、やはり人目は気になるらしい。しかし好きなことほど会話のネタにしたいと思うのは当然といえば当然。もし私がレズだったら美男子よりも美女を話題にするだろう。エリカにとってはそれがセックスなのである。
「私たちだって日本人じゃない。でも嫌な顔はしない」
よりいっそう熱く語るエリカに、私たちは苦笑気味。確かに日本は変なところで潔癖性を持っている。だけどこうやって私たちはセクシャルな話を大学でしている。もうその事実だけでいいのでは?
「じゃあ、知らない人からいきなりセクシャルな話題を持ちかけられても平気なの? 私なら絶対無理よ」
 リョウコはそういって資料にマーカーラインをきゅっと引く。
「思うんだけど、私たちって全員処女じゃないじゃない? もしかしてセクシャルな話をタブーにするのは処女なんじゃないかしら」
 確かにシオリの意見には納得できるものがあった。今までつきあってきた男性達は、セクシャルな話を嫌がらなかった。むしろ下ネタとして男性が積極的にセクシャルを会話のネタにすることもある。つまり性に対して極度な潔癖感や抵抗感を抱いているのは女性が圧倒的に多い。
 以前、彼氏と3年以上付き合ったにも関わらず、処女を守り続けた女性の話をきいたことがある。そこまでして処女は守るべきものなのだろうか。それともセックスは汚いものなのだと思われているのだろうか。

 
to be continued
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 基本的に童貞はめんどくさい。
 ならば処女もめんどくさいのかというと、逆にプレミアがつけられる。
 処女を捧げる時、「君の初めてをもらえて嬉しいよ」なんてクサイ台詞を言う男性はいるが、童貞を捧げられた時、「貴方の初めてをもらえて嬉しいわ」なんていう女性は滅多にいない。せいぜい「まだウブなのね、可愛いわ」ぐらいだろう。何故なら童貞に一からセックスを教え込むのは非常にめんどくさいからだ。しかし、童貞に面と向かって「めんどくさい」ということは出来ず、私たちは仕方なく手取り足取り教え込むのである。
 私は手にした人参を買い物カゴに放り込む。
 ということは、男性は処女をめんどくさいと思ってないのだろうか。
 
※※※※※
 
 私が夕飯の買い物をしている頃、シオリは否応なく処女の価値について考えさせられていた。偶然登録していた一般教養の授業が、今日に限ってFGM(Female Genital Mutilation 直訳すると女性器切除)を取り扱ったのである。
 授業でFGM関連のビデオを見た後、シオリは図書館で徹底的にFGMについて調べ上げ、最終的に「処女に価値を与えているのは男性のエゴだ」という結論を導き出した。つまり女の私たちからしてみれば、処女には何の価値もないというのである。更にいえば、処女がセクシャルな話題を嫌うのは、単なる食わず嫌いだという結論に至った。

※※※※※
 
 翌日、私が文学部のラウンジにいくと、リョウコがエリカにTPOの大切さをみっちり叩き込んでいた。
「別にそういう話をしちゃいけない訳じゃないのよ。ただ、場所によっては表現を変えたほうがいいっていってるの」
「なんで処女のために私が頭使わなきゃいけないわけ? 別にいいじゃない、未知の世界が聞けると思えば嫌な気分にもならないと思うのよね」
「エリカ…。何もしらないからこそ聞きたくないのよ」
 私は自動販売機でココアを買ってエリカの横に腰を下ろす。
「例えば近い将来地球にエイリアンが侵略してくるとする。で、それを既に見た人達がいて、エリカの横でその話をしているとしましょう」
「エイリアンの外見とかについて話してるってこと?」
 温かいココアの缶をホッカイロ代わりに首筋に当てながら、エリカの代わりに合いの手を入れる。
「そう。それが全然知らない未知の単語だったり、普段私たちが使わない単語だけで語られてるとするじゃない。そうすると、聞いてるこちら側としては全く訳がわからないのよ」
「別にいいじゃない、わからなくったって」
 エリカが口をとがらせて反論する。
「ところが、『エイリアンのことを知らない奴は恥ずかしい』って周囲の人たち全員がいってたら、どうする? 自分は全くエイリアンのことをわからないし知らないわけだから、自然とその話題は避けたくなるでしょう」
 エイリアンとセックスを置き換えるのには無理がある。私はぬるくなったココアを飲み込んで口を挟んだ。
「リョウコ、言いたいことはわかるんだけど、それって処女限定の話よね。世の中には経験済みなのに、公共の場でセクシャルな話題をしたがらない人も多いわ。エイリアンじゃ無理がある」
 考え込んでしまったリョウコの代わりに、
「エリカ、ここで『あたしの彼氏は立ちバックが好きで、いつでもどこでもがんがんヤりまくりなのよ!』って大声で叫べる?」
「は?突然何言い出すの、ミカ」
「言えるの?」唖然とした表情を浮かべるエリカを追撃する。「ちなみに私は絶対に無理だけど」
「あたしだって無理」周囲を見回しながらエリカがいう。「こんなに沢山人がいるところで、そんなこといえないわ」
「じゃあ、『あたしは彼氏の事、愛してるの!』なら言える?」
 少しの沈黙の後、「恥ずかしいけど、いえないこともないかも…」という返事が返ってきた。
「つまりはそういうことよ。愛してるって単語は暗に夜の営みのことも指すけど、そうじゃない場合もあるわよね。だから他人が聞いても不愉快な思いをしない。でも逆に『セックスしまくりなの!』って公共の場で叫ばれたらドン引きでしょ? だからたとえ食堂の隅で話していても、多少は気を使いなさいってこと」
「セクシャルな話題はいいけど、表現を間接的にしろってことね」やっと納得した表情でエリカが頷く。「じゃないと私が変人扱いされるのね」
「それに処女にとってはセックスはエイリアンも同然なんだから。尚更抵抗感があるわ」そう茶目っ気たっぷりに付け加えてリョウコのほうを見る。
「別に処女であることが悪いわけじゃないんだけどね」そういってリョウコの手が私のココアをさらっていく。
「私たちだって処女を捨てたくて適当な男と寝たわけじゃないでしょ? なのに20歳までには処女から抜け出そうと必死になる女の子もいるらしいのよね。無理して捨てるものじゃないと思うんだけどな」
 しみじみと語るリョウコの手からココアを奪還しようと私は試みるが、気がつけばココアはエリカの手に渡っていた。
「同感。ていうか極論をいっちゃうとHの楽しさは1人でも楽しめるもの。処女だってことを気にするあまりセクシャルな話題を嫌うんだったら、それは凄く損してるとおもう」
「そうね、とても正論なんだけど、なんだけど、いい加減私のココア返してよぉ!」
「ごちそうさま」という言葉と共に返ってきたココアの缶は、すっかり中身が飲み干されていた。いつもの事だと気を取り直し、私は反撃にでる。
 午前最後の講義がおわったらシオリがここにやってくる。そしたら今回の結論について確認しあおう。そんなことを考えながら、私はエリカとリョウコをくすぐるため、追い掛け回していた。
 
End
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